株式会社 仲野メディカルオフィス 仲野 豊
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行政当局による指導・適時調査等の種類

「保険診療の質向上と適正化」を旗印に関係機関による保険医療機関等への指導・適時調査・立入監査が増加傾向にあります。ところが、医療法による「立入検査」なども含めて、「医療監視」と「医療監査」という言葉が持つ意味を混同しているケースが時々あります。

「指導」も「立入」もいろいろ

 「来月うちの病院に保健所から監査にやってきて、診療報酬の施設基準不備を指導した上で、その部分のお土産を持って帰られる(返還をさせられる)らしい、どうしよう」――。この手の話をよく聞きます。どうも行政当局から何らかの訪問指導の予告があって、その主旨さえも理解できないまま戸惑っているようです。正確には個別指導の結果などを踏まえ、保険診療の内容または診療報酬の請求が適切かどうか、その事実関係を把握するために実施されるのが「立入監査」であって、この場合は「個別指導」か「適時調査」です。行政による指導等の種類を整理してみましょう。

<表1 指導・適時調査等の種類>

名称区分 内 容
指導 集団指導 多人数を一度に対象とする講習会形式で実施。臨床研修病院等を対象とする特定共同指導では、併せて集団指導が実施される。
集団的
個別指導
1996年に創設された比較的新しい指導制度で、診療報酬請求上位点数(8%を標準)の医療機関を対象に実施。実施状況は地域により異なっている。
個別指導 通常は都道府県と地方厚生(支)局による個別面接方式で実施。新規開業1年後の医療機関を対象とする「新規個別指導」、支払基金や保険者等からの「情報による個別指導」が通常の個別指導で、これらの他に厚生労働省と都道府県と地方厚生(支)局の3者による「共同指導」、臨床研修病院、特定機能病院等に対して行われる「特定共同指導」がある。
適時調査 診療報酬点数表の基本診療料(入院料)や特掲診療料(医学管理、検査、処置、手術、リハビリ等)の施設基準届出項目について適正であるか否かを実地調査する。
立入監査 診療内容および診療報酬請求に不正または著しい不当の疑いの理由がある場合に実施。
立入検査
(医療監視)
保健所により実施。基本的には診療報酬の請求内容とは関係なく、医療法に基づく基準が遵守されているかどうかを中心に定期的に実施。以前は医療監視と呼ばれていた。

「個別」に大勢で「指導」

 医療機関への訪問は、個別指導、適時調査、立入監査、立入検査(医療監視)の4つに大別でき、立入検査以外は保険請求に関連しています。また、指導は集団指導、集団的個別指導、個別指導にわかれています。

 個別指導は、その実施目的によって意味合いがまったく変わってきます。「新規個別指導」は新規開業後1年超の医療機関向けに行われるものですが、「情報による個別指導」は支払基金等の審査機関、協会けんぽ等の保険者、患者などからの情報提供により実施されます。

 通常の「個別指導」では都道府県と地方厚生(支)局の担当者が一緒に数名来院し、個別面接方式で行われています。また、個別指導には厚生労働省と都道府県と地方厚生(支)局が共同で行う「共同指導」と臨床研修病院、特定機能病院等に対して行う「特定共同指導」があり、この場合は総勢数十人にもなるようです。

「監視」と「監査」では大違い

 「適時調査」は地方厚生(支)局が診療報酬点数の通則や施設基準に基づく届出項目に関する点検を行います。個別指導では医系技官がレセプトと突き合わせることもあるようですが、適時調査ではこれらが行われていないようです。あくまでも届出内容が施設基準を満たしているかに重きが置かれているからでしょう。

 「立入監査」は、限りなく“クロ”と疑わしく思われる医療機関に対して実施されることが多く、大変厳しいものです。何度も何度も(十数度にも及ぶことも)立入が実施され、監査後は、保険医療機関及び保険医の「取消」「戒告」「注意」という思いの行政措置が待っています。

 これに対し、「立入検査」は医療法を主幹する課(保健所)によって、病院、診療所を対象に、医療法で定められた基準(清潔保持や構造設備、診療録等の帳簿書類)の遵守について、年1回実施されているものです。以前は医療監視と呼ばれていたため、立入監査と勘違いしている場合も見受けます。

 これら以外にも、会計監査院と厚生労働省が連携して行う調査もあります。近年では医療保険と介護保険のいずれでも算定可能な行為について、優先請求状況をチェックしています。

 いずれの場合も法令を順守して、正しい請求や記録の保存を確実に行っていれば何も心配する必要はありません。